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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2003年

2003年  

コスモス1月号

食欲の失せたる夫が白粥をふた匙食べて溜息をつく

赤とんぼ翅光らせて止まりたり携帯電話のアンテナの先

散り敷ける落ち葉の中に拾ひたり棘手に痛きマロニエの実を


コスモス2月号

本家より日本に安く売られをいマックバーガー五十九円

ケイタイに話しかけつつたらたらとミニスカ少女が我の前行く

夜の町のブラックホール営業を止めて久しき巨大ホテルは


コスモス3月号

母のゐしマンションに来てなぞりをりその晩年の独りの時間 

あなたよりかかる電話の着メロは追ひ駆けつこのフーガと決める

戸籍簿も住民票も無き国のカナダに我が持つ九桁番号


コスモス4月号

鴨九羽のどれが番(つがい)か独身か雄が雌より一羽多くて

日本では御用納めて休日の三十一日平常業務

「老人は朗人なのよ」と裕子さんニコニコマークを賀状に添へる

「一世紀生きおほせたり初日の出」堂々墨書の賀状が届く

芹、なづな、パセリ、クレソン、蕗の薹、白菜、大根 わが春の粥


コスモス5月号

雨少し混じれる雨が傘を打つ大谷廟の細き坂道

四百年の死者の心を抱き込み大谷廟はしんと冷えたり

スランプを嘆く私に友が言ふ「昼寝をしない兎はないよ」



コスモス6月号

受け継ぎし母の遺伝子しつかりと我の裡より我を支配する

「あかんぼは泣くのが仕事」お隣のアッチャンとても仕事熱心

当面の敵は自分の気の弱さ今日も幾度か負けさうになる



コスモス7月号

紅淡き桜はなびら降り止まず座る人なきベンチの上に

「わが軍が無事に帰つて来ますやう」テロップ流れニュースが終はる

明子さんが動かぬ足を嘆きます「カナダの氷河も踏んだ足が」と


コスモス8月号

「人生を寿ぐ会」と銘打てる友の葬儀に鈴蘭の供花 
  
癌治療拒否せし女(ひと)が旅立ちぬ「豊かな一生でした」と言ひて

人生の小春日和の温とさに夫と二人のゴルフラウンド

オルゴールをポロポロ鳴らし徐行するアイスクリーム売りの車が



コスモス9月号

日本よりカナダに着きし飛行機を出でたる途端検疫に遭ふ

バンクーバーにSARSを絶対入れまいと検疫官らは仁王立ちなり

鶯の声が小さく聞こゑ来る鮎解禁の日本のニュース


コスモス10月号

風花のやうに舞ひ来て柳の絮あなたの髪にふはりと止まる

ポツポツと大粒の雨降り始め散歩のフィナーレ駆け足となる

気に入らぬことには断固「ヤダ!!」と言ひ年上の友堂々と老ゆ

微かなる風すら吹かぬ真夏日の今日は烏も姿を見せず



コスモス11月号

飛行船ゆるゆる頭上を過ぎ行けり大きな影を芝に落として

目かげして見上げるポプラの葉の陰に白頭鷲が四羽も止る

想ひ出はいくらあつても足りなくて次から次へとシャッターを切る



コスモス12月号

ごろおんと馬が一頭横たはる三月(みつき)も雨の降らぬ牧場に 

西空の厚き雨雲向きを変へ北の山へと遠ざかりゆく

東南の空に上りて孤独なりいくさ戦の神の名を負ふ火星



日本歌人クラブ国際大会(バンコック) 
 在タイ国日本大使賞

レシートの裏に書かれし短歌メモ逝きたる母の財布に残る

祈るときあなたが伏せた目のあたりふつと疲れを見たる気がする


バンクーバー短歌会

1月

日本ではスタバと呼ばれ営業が不振だといふスターバックス

刺されたる昔の友の通夜に行く 「何で政治家などになつたの?」


3月バンクーバー短歌会
(EFAX doc.で保存したために、開けなくなってしまいました。)


4月バンクーバー短歌会
(EFAX doc.で保存したために、開けなくなってしまいました。)


5月バンクーバー短歌会

さあこれですつかり身軽 旅の荷のリュックはコインロッカーの中

ITにペーパーレスとなる筈の机の上に書類山積


6月バンクーバー短歌会

ピピピッと携帯電話が呟きてあなたのメールの着信を告ぐ

親指をピコピコ動かし発信す貧乏ゆすりのやうなメールを


7月バンクーバー短歌会
(EFAX doc.で保存したために、開けなくなってしまいました。)


8月バンクーバー短歌会

若き日の憧れなりき「裏窓」のグレース・ケリーの細きウエスト

ひとつづつ窓の灯消してマンションあ夜の闇深く沈み始める



9月バンクーバー短歌会

想ひ出はいくらあつても足りなくて後からあとから写真が増える

想ひ出は整理されないままにあり 箱に溜まれる写真のやうに



10月バンクーバー短歌会

コロンビア氷河の上に立つ我の頬にひやりと太古の冷気   

生き埋めの恐竜たちの溜息は氷河を渡る風の冷たさ 


11月バンクーバー短歌会
(EFAX doc.で保存したために、開けなくなってしまいました。)


12月バンクーバー短歌会

夕映えの紅に染まれる白雁が鳴き交はしつつ空に消えゆく

夕映えに燃やせし今日の想ひなり 残り火あらば星と輝け


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